オンラインコミュニケーションの反応を可視化する

コロナ禍でオンライン会議が増えたけれど、参加者の反応(リアクション)が分からなくてやりにくい、という声がよく聞かれます。ビデオをオフにしている人が多いことが大きな要因です。

そこで本記事では、ビジネスの現場でのオンライン会議(ビデオ会議/Web会議)、教育現場でのオンライン授業、音楽・演劇などのオンラインライブなど、オンラインコミュニケーションにおいて相手の反応を可視化する方法について考察してみます。

オンラインのビデオ撮影

参加者がカメラをオフにする理由は様々

プライベートな空間を映したくない、化粧をしていない、髭を剃っていない、私服を見せるのが嫌だ、自宅のネット環境がよくないなど、ビデオ(カメラ)をオフにしたい理由は人によっていろいろです。スライドなど画面共有の時間が長いためカメラをオンにするメリットを感じない、といった理由もあるようです。

これに対し、会議等の主催者側がカメラをオンにするよう出席者に求めるケースもあるようです。筆者も、あるマスコミ関係者から「そんなの、カメラをオンにしてくださいと言えばいいだけじゃないですか」と言われたことがあります。しかし、顔出しの強制にはハラスメントを生む可能性も指摘されています。顔出しについては、相手の事情に思いをめぐらせ、確認を取りながら慎重に対応したほうがよいと考えられます。

それでも参加者の反応を体感したい

カメラをオフにしていても、少人数の社内会議だと、「聞こえている?」「今の話わかった?」など、確認を多めに入れる工夫で補えます。しかし、会社の経営方針や新しく導入した制度について多くの社員に説明するなど聴衆が多い場合は、そのような対応が取れません。そのため、空気に向かってしゃべっているようで手応えがない、という声も聞かれます。オンライン授業の講師をする人も同様のようです。音楽などのオンラインライブでも、ファンの熱量が分からないとアーティストは戸惑うでしょう。ウケたかすべったかに敏感なお笑いライブが無観客では、芸人さんがモヤモヤしそうです。相手の反応を体感したいという欲求は、オフラインでもオンラインでも変わらないのでしょう。

今すぐにでもできる工夫

カメラをオフにしたい人と参加者の反応を体感したい人のニーズを調和させるため、社会的にコミュニケーションのオンライン化が進む過程で様々な工夫が編み出され、人々に共有されてきています。代表的なものは、背景をバーチャル背景に置き換えてプライベートを保護することでしょう。主催者側が、ZoomやMicrosoft Teamsなどのビデオ会議ツールの投票機能を利用して簡易アンケートを実施し、参加者の考えや反応を把握するとともに、参加者に一体感を醸成する工夫もオンラインセミナーではよく見られます。画面が分割され、資料を映し出しておくスペースが狭くなりますが、チャットウィンドウを常時表示して相互コミュニケーションを可能にすることも、オンライン授業やオンラインセミナーでよく行われています。

背景をバーチャル化しただけでは顔はそのままですが、Snap Cameraのように、ビデオ会議の映像を加工できる(エフェクト機能)アプリを使えば、素顔をそのまま映す必要がなくなります。そうすれば、カメラをオンにしてもいいと考える人が増えるかもしれません。

音楽・演劇などのオンラインライブでも、ライブ配信システムにリアルタイムアンケートなど視聴者の反応を可視化する機能を付加する取り組みも見られます。専門のホールや劇場を使わなくてもスマホだけで手軽に配信できるライブ配信アプリはコロナ禍のずっと前から存在し、17LIVE、SHOWROOM、BIGO LIVEなどがよく知られています。基本であるライブストリーミング機能に加えて配信中にコメントを送れるなど出演者と視聴者に一体感をもたらす双方向性にも工夫が凝らされています。

オンラインでの表情の工夫

今後実用化されそうな工夫

「こんなこともできたらいいのに」と思ったことが、数か月後には機能が開発されていた、ということも珍しくないのが、デジタルテクノロジーの世界です。ビデオ会議ツールもビデオ会議の映像を加工できるアプリもコロナ禍以前から存在していましたが、コロナ禍で利用が急拡大するとともに、機能もスピーディに拡充されてきています。

では、今後はどんな機能が実用化されていくでしょうか。方向性として考えられるのは、参加者の反応をより即興的に伝えていく仕組みです。ビデオ会議ツールの投票機能は、基本的には主催者側が予め質問を設定して利用するものです。常時表示しているチャットウィンドウにコメントを書き込んだり、そこにいいねボタンを押したりということも、感じた時点から表示までにはある程度の時間差があります。それに対し、参加者や視聴者のジェスチャーを画像認識AIでリアルタイムに捉えることができれば、それらをアイコン化して画面上に並べたり、集計してヒートマップのように表示したりすることで、より即興的に反応を伝えることができそうです。その場合、カメラをオンにする必要はありますが、実映像でなくジェスチャーのデータだけを送信するように設定していれば、プライベートな映像は他者の目に触れないようにできます。

音楽ライブの醍醐味のひとつと考えられるコール&レスポンスをオンラインで実現しようという取り組みもあるようですが、視聴者のジェスチャーのデータ送信も、ライブの熱量の共有に役立つかもしれません。

画面を見て喜ぶ男性

ワクワクするオンラインコミュニケーションへ

今までと違う取り組みを始めると、メリット以上にデメリットを感じることはよくあることです。それが、災害などによって止むを得ず始めたことなら、なおさらです。オンラインコミュニケーションに関しても、会議で顔が見えないと伝わっているのかいないのか反応が分からないという感想は少なくないですし、オンライン授業については、人と人とが直接顔を合わせる集団活動が理想の教育現場だといった意見も聞かれます。

しかし、新たなテクノロジーも活用して、工夫を重ねることで、トータルではオフラインを上回るメリットをオンラインで享受できるようになる可能性は十分にありますし、そうなるまでチャレンジを続ける価値も十分にあると考えられます。オンラインコミュニケーションは、もっとワクワクするものに進化していけるのではないでしょうか。オンラインでの体験がそこまで進化し洗練されたとき、改めてオフラインでしかできないことが浮かび上がってくるかもしれません。

本稿がオンラインコミュニケーションの今後を考えていくのに少しでも役立ちましたら幸いです。

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