在宅勤務の実践ポイント

2020年の新型コロナウイルス感染症拡大を背景に、在宅勤務を本格的に実施する企業が増加しました。人と人の接触を減らす目的で急激に導入が進みましたが、働く場所や就業時間の制約を見直し、働き方改革を推進する取り組みとして、中長期でも拡大・定着していく可能性があります。

そこで、2011年からテレワークをはじめとした社員の多様な働き方の実現に取り組んでいるCACの経験も踏まえて、在宅勤務を円滑に進めるための実践ポイントをご紹介します。

テレワークや在宅勤務に関しては、業種や業務の内容によっては向き不向きがあります。そのため、本稿では在宅勤務が可能な業種や業務に従事する方々の実践を対象にします。

企業のICT環境の整備

在宅勤務では、各社員が表計算ソフトで計画の管理や実績の集計をしたり、プレゼンテーションソフトで提案書を作成したり、社内の共有ファイルを参照したりということが、オフィスに出社しなくてもできるICT環境が必要です。

テレワークのためのITインフラ

在宅勤務でのビデオ会議

テレワークを実現するITインフラには複数の選択肢があり、社内のPCに外部からアクセスするリモートデスクトップ、インターネット上に仮想的な専用線を設けてセキュアにデータをやり取りするVPN(Virtual Private Network)、クライアントPCのデスクトップ環境をサーバー上で稼働させる仮想デスクトップの3つが主な方式です。安全性、快適性、コストなどに違いがあるので、何を重視するか、企業の必要性に応じて方式を選択します。

注意が必要なのは、大規模かつ急激な利用拡大を図ると、機器の調達が間に合わないとか、速度が低下して業務に支障をきたすなどの問題が生じる可能性のあることです。コロナ危機対応では、そうした事態に見舞われた企業がありました。

そこで注目されているのが、柔軟に利用規模を拡張・縮小できるクラウド型の仮想デスクトップです。マイクロソフト社の「Azure Virtual Desktop(AVD)」が、その代表的なものです。

また、リモートアクセスの新しい形として「ゼロトラスト」も注目されています。次世代セキュリティモデルの概念として登場しましたが、VPN機器を必要とせず、短期間で大規模ユーザーに展開可能なため、コロナ危機に際して利用が急増しました。ゼロトラストを実現する主な技術には「Software Defined Perimeter(SDP)」と「Identity-Aware Proxy(IAP)」があります。

コミュニケーションツールが重要

仕事を進める上では、同僚に質問をしたり、社内外の人と会議をしたりといったことをオンライン上で実現できるコミュニケーションツールも必要になります。ZoomやGoogle Meetなどのビデオ会議ツール、Slackなどのチームコラボレーションツールが主要なツールです。ビデオ会議ツールは、PCに装備されているWebカメラやマイクを利用して、参加者がお互いに顔を見ながら会話でき、文字だけでは表現できないコミュニケーションが可能になります。チームコラボレーションツールでは、中核であるチャット機能が、スクロールするだけで過去のやりとりを追うことができ、そのやりとりに新たなメンバーを招待して容易に情報共有できることなどから、メールを置き換えていくとも言われています。

ビデオ会議とチームコラボレーションの両方の機能を備えてユーザー数を拡大しているのがMicrosoft Teamsです。なお、Zoomにもチャット機能があり、Slackにもビデオ通話機能があります。各ツールが競い合いながら機能を進化させている分野なので、重視する目的に照らしつつ十分に比較検討して導入することをお勧めします。

こうした各種ツールについては、社員がはじめて利用するものが少なくないため、導入方法や利用方法に関してあらかじめマニュアルを用意して適宜参照できるようにしておきましょう。

ペーパーレス化の推進も必要

定常的に在宅勤務を実施するには、紙の文書を少なくするペーパーレス化は必須条件です。複合機などでスキャンし電子化する、あるいはOfficeソフト等で文書作成し、印刷せずに電子ファイルのまま保管・共有することまでは、実現できている企業は多いでしょう。ただし、書類+業務の流れをセットで電子化できていないと、紙の書類に捺印して提出し、上長や主管部門に押印・決済してもらう業務プロセスが残り、そのために出社する必要が生じます。この段階をクリアするには、ワークフローシステムの導入をお勧めします。

社内申請のペーパーレス化であればワークフローシステムの導入でほぼ達成可能ですが、契約書など社外とやりとりする書類はそうはいきません。この場合は電子契約の仕組みを利用します。電子契約とは、電子データに電子署名することで、書面による契約と同様の証拠力が認められるものです。

在宅勤務に適した環境を整える

テレワークと子供の様子

在宅勤務のために企業や組織が整えた環境を効果的に利用するには、社員の方が留意しておきたいポイントもいくつかあります。

自宅のITインフラ

まず、注意したいのは自宅のインターネット回線速度の把握と必要に応じた改善です。

自宅で会社の情報システムを利用するための仮想デスクトップやVPNなどの方式では、インターネット接続可能なことが前提になります。そのため、安心して仕事を行うためには、一定のインターネット回線の速度があることや通信制限が多くないことなどが条件になります。著しく回線速度が遅い場合などはモバイルルーターの交換や有線への変更など改善策を行う必要があります。

また、自宅のPCを利用する場合はOSのバージョンや利用可能なアプリケーション、セキュリティソフトなど、情報システム部門などが定めた条件をきちんと満たしているかも注意が必要です。

自宅の作業環境

自宅とはいえ、日中長時間の仕事をするための在宅勤務の作業環境は重要です。

集中して仕事を進めるためには、PCやデスク周辺は必要なもののみを置いて整理しておくとよいでしょう。

各自宅の環境には様々な違いはありますが、ダイニングテーブルなどで長時間の作業をすることは、姿勢などの観点からあまりおすすめできません。できれば、専用のデスクや椅子などを用意して高さなども調整するのがよいでしょう。そのほか、明かりや室温などにも注意して、より集中して快適に仕事ができる環境を整えましょう。

以下の厚生労働省のWebページでは、自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備のポイントがまとめられており、参考にされるとよいでしょう。

自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備(厚生労働省)

在宅勤務と社員の家族

自宅が就業環境となる在宅勤務では、社員のご家族に理解をいただくことも重要なポイントになります。

例えば、普段はスーツを着て会社に出勤している親が違った服装で自宅にいれば、小さなお子さんには「今は仕事をしている」とすぐに分かってもらうことは難しいかもしれません。また、在宅勤務中でも、自宅にいるためパートナーの方に家事を依頼される機会もあるでしょう。

こうした際にどのように対応するべきか迷う方は、特に在宅勤務の導入初期に見られるようです。ご家族とは在宅時の家事や育児などについてよく話し合うことも必要です。企業によっては、在宅勤務を始める際に、家族の方に対して協力をお願いすると同時に、家族の方の了解を文書で取っているケースもあるそうです。

一方で、ちょっとした買い物の依頼やお子さんのお迎えといったご家庭の用事にも対応できるのは在宅勤務のメリットでもあります。職場のメンバーと時間や作業などの調整や協力をして、柔軟な働き方として上手に活用したいものです。

始めてわかる在宅勤務の課題

在宅勤務と猫

在宅勤務を行う環境が整っても、実際に在宅勤務を始めてみると、当初考えていたように在宅での仕事がスムーズに進まないことがあります。在宅勤務を実際に行ってから社員の課題としてあがる主なポイントやその対策についてご説明します。

運動不足になりがち

通常の勤務の場合、デスクワークの方でも1日の中では意外と体を動かす機会が多いものです。例えば、通勤時に電車の中で立っていたり、駅などの階段での昇り降りしたり、オフィス内でもフロアの移動や外出の機会があり、あまり意識をしていなくても体を使う機会はあります。

しかし、在宅勤務の場合、通勤はありませんし、ほぼすべての業務はPCの前で完結するため、歩いたり、体を動かしたりする用事はほぼありません。在宅勤務をするようになってから、社員から「運動不足が気になる」「体重が増えた」という声が聞かれることも少なくありません。

そのため、在宅勤務時には、意識的に身体を動かす機会を取り入れましょう。業務の開始前や休憩時間に軽い運動をしたり、または、業務時間内でも時間をやりくりして近所を散歩したりすれば、運動になるとともに気分転換にもなり、体調の維持や管理にも役立つでしょう。

集中力が続かない

社員が仕事を行うことに特化した環境であるオフィスと比べて、在宅勤務ではプライベートな空間で仕事を行います。そのため、在宅勤務時は業務と関係がないものが目に入ったりして、集中力を維持することが難しいこともあります。前述したご家族とのコミュニケーションなどで集中が途切れてしまうこともあるでしょう。

在宅勤務では集中して仕事を行うことに自己管理が求められるため、デスク周りは整理して意識を乱すようなものはできるだけ置かないのも1つの方法です。また、ご家族の在宅勤務への理解と協力を得るようにしましょう。

しかし、在宅勤務とは、そもそもプライベートな空間に仕事を持ち込むものですから、明確に仕事とプライベートを切り分けることは容易ではありません。成果をあげることにフォーカスして、仕事の取り組み方は柔軟な発想と姿勢で臨むのがよいでしょう。

自律的な時間管理が必要

オフィスで仕事をしている際には、「仕事の開始」「休憩」「仕事の終了」のタイミングは強く意識しなくても、周囲の人の動きや始業時のチャイムなどで容易に理解できます。しかし、在宅勤務ではオフィスと異なり、始業や昼休み、終業時にベルやチャイムが鳴ることはありません。そのため、自律的な時間管理が必要になります。

時間管理の対策として、在宅勤務時の起床時間や食事の時間、さらに始業時間や昼休み、終業時間をオフィス勤務時と同じ時間とすることも1つの方法です。また、スマートスピーカーなどを利用してリマインダーをセットするのも効果的でしょう。

在宅勤務では、意図せず労働時間が長くなってしまう可能性もあります。マネージャーがチームメンバーの労働時間等をしっかり管理することはもちろん大切ですが、メンバー自身も業務の開始や終了、休憩といったメリハリをつけた働き方を意識することが重要です。

在宅勤務でのコミュニケーション

在宅勤務時のオンライン会議

在宅勤務を円滑に進めるポイントとして最後に取り上げるのは、社員同士のコミュニケーションにおける課題です。

社員が各自宅で業務を行う在宅勤務では、お互いの姿が見えなかったり、打ち合わせ機会が減少したりして、社員同士のコミュニケーションが滞りがちになることには注意が必要です。コミュニケーションの機会が少なくなれば、孤独感を感じがちになるなど心身への影響も懸念されます。

在宅勤務時のコミュニケーションの工夫

在宅勤務時に社員同士のコミュニケーションが滞りがちになる原因の1つとして、メンバー同士お互いの姿が見えないために状況がわかりにくい点があげられます。あるメンバーにチャットなどで話しかけたい場合、そのメンバーが現在話しかけても良い状態か、そもそも応答可能な状態かなどがわからなければ、コミュニケーションは取りづらくなってしまいます。

こうした場合には、メンバー間のお互いの状況を「見える化」することでコミュニケーションを取りやすくなります。

具体的には、各メンバーの予定表(例:Outlookなど)をきちんと入力して公開しておく、コミュニケーションツールのプレゼンスやステータス表示を活用する(例:連絡可能、退席中など)、といった方法があります。

こうして各メンバーの状態が見える化されることで、打ち合わせの設定やチャットなどでの連絡などをスムーズに行うことが可能になります。状態や情報を共有することでメンバー間、そして社内に気軽でオープンな雰囲気が生まれ、コミュニケーションの活性化にもつながります。

そのほかにも、ミーティングの際にはなるべくカメラをONにしてお互いの顔を見ながら話す、チャットではちょっとした雑談も意識して積極的に行う、などすることで社員に孤独感を感じさせず、コミュニケーションを促すことが可能になるでしょう。

在宅勤務の目的

在宅勤務を実施する本来の目的は、新型コロナウイルス感染症への対応のような緊急時の対応にとどまるものではありません。

在宅勤務のように社員に多様な働き方が可能になることにより、企業の目的や自身の成長に向かって社員が強いモチベーションを持ちながら、社員がその持てる能力を十分に発揮して高い成果(顧客満足度の向上)を出すことが本来の目的です(デジタルワークプレイスの実現)。

そのため、在宅勤務の実施時でも社員同士の円滑なコミュニケーションは不可欠です。組織のスムーズなコミュニケーションが実現されてこそ、業務効率化や生産性向上も達成されると言えるでしょう。

リモートでのコミュニケーションは社員同士にとどまりません。会社の枠を超えて、必要な人と、必要な範囲だけ情報を共有し、バーチャルなチームとして働ける環境も、デジタルテクノロジーの進化により可能になってきています。コロナ禍のために止むを得ず大規模な在宅勤務を実施したら、実はそこに新しい可能性があることに気付いた、という企業もあるのです。

以上、CACの経験も踏まえて、在宅勤務の実践ポイントをご紹介しました。本稿が1社でも多くの在宅勤務の実践と、その社員の皆様の快適な働き方に役立ちましたら幸いです。

 

[参考文献]

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