Microsoft 365活用が進まない理由と現場で起きていること

Microsoft 365活用が進まない理由と現場で起きていること

Microsoft 365(以下、M365)は、今や日本企業の標準的なITツールです。2022年の調査では企業の72%がすでに導入済み*1とされており、コロナ禍を経てTeamsやOutlookは多くのビジネスパーソンにとって日常的な存在となりました。

「M365さえ入れれば、業務に必要なツールが一通り揃うはずだ」——導入当初、多くの企業がそう考えたのではないでしょうか。

しかし実際には、調査データが示す現実は少し違います。M365利用企業の約半数(48.6%)がワークフローを他社製ツールで行っており、文書管理(40.3%)、掲示板・全社通達(39.9%)、社内ポータル(38.9%)も別ツールで運用している企業が目立ちます。*1

つまり、「M365で一本化できるはず」という期待とは裏腹に、複数ツールの併用が常態化しているのが日本企業の現実なのです。

なぜMicrosoft365だけでは完結しないのか?3つの理由

企業が国産グループウェアを始めとしたM365以外のツールを手放せない理由は、大きく3つに集約されます。

理由1:操作性・使いやすさの違い

「M365にもある機能をなぜ別ツールで?」という問いに対する最多回答は、「その方が操作しやすいから」です。

国産グループウェアは日本人の業務慣習を前提としたUI設計がなされており、マニュアルなしでも直感的に操作できます。一方、M365でSharePointポータルを構築したりPower Automateで承認フローを作ったりするには専門知識が必要で、多くの企業では「専門的なIT管理者が設定し、一般社員は使うだけ」という構造になりがちです。

現場のITリテラシーや新システムへの抵抗感を考えると、使い慣れた国産ツールの方が受け入れられやすい——これは極めて現実的な判断です。

理由2:日本企業特有の業務への適合度

稟議、決裁、回覧、掲示板——こうした日本企業独特の業務慣習に対応する機能は、国産ツールでは標準搭載されています。M365でも実現は可能ですが、Power AutomateとSharePointを組み合わせて構築する必要があり、ハードルが高いのが現実です。

また、組織階層の扱いも異なります。国産ツールでは「本部>部>課」といった階層で社員を管理し、組織順にアドレス帳を閲覧できるのが当たり前ですが、M365は基本的にフラットな構造のため、日本企業の文化に合わない場合があります。

こうした細かな違いの積み重ねが、「やっぱり国産ツールの方が使いやすい」という感覚につながっています。

理由3:移行の複雑さと既存システムへの定着

2000年代以降導入された国産グループウェアは、すでに社内業務インフラとして深く根付いているケースが少なくありません。長年の蓄積データや社員の行動様式に組み込まれたツールを急に廃止するのは、現場の強い抵抗に遭います。

加えて技術的な移行の難しさも障壁です。スケジューラーの文化の違い(M365は「会議依頼」、国産ツールは「直接書き込み」)や、回覧板・設備予約・安否確認といった細かな機能の代替策検討など、相応の手間とコストを伴います。

このまま併用を続けることの本当のコスト

ここまで読んで、「同じ状況だ」と感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

では併用による問題のうちの1つ、スケジュール管理の二重化によって、具体的にどのような問題が起きているのでしょうか。

その一例として、会議の予定が「片方のカレンダーにしか登録されていない」ために起きるトラブルがあります。社内でダブルブッキングが発生したり、会議の見落としが起きたりするケースが後を絶ちません。また、社員が二つの予定表を見比べて手動で転記するという非効率な作業が、日常的に発生している企業も少なくありません。

ここで、M365と国産グループウェアの併用による見えるコストと見えないコストを整理すると、以下のようになります。

目に見えるコスト

  • M365と既存ツール双方のライセンス費用
  • それぞれの保守・運用費用
  • IT部門の管理工数

これらは比較的わかりやすいコストです。経営層などから「二重コスト」として指摘されることも多いでしょう。

目に見えにくいコスト

実は、より深刻なのは目に見えにくいコストかもしれません。

スケジュールの二重登録、情報を探す時間、ツール間の転記ミス対応——これらは一つひとつは小さく見えても、社員全体、年間で積み上げると決して無視できない工数になります。

現場の非効率

  • スケジュール二重登録の手間
  • 情報がどこにあるか探す時間
  • ツール間の転記ミスによるトラブル対応
  • 新入社員への複数ツールの教育コスト

機会損失

  • M365の高度な機能(Teams連携、Power Platform等)を活用できていない
  • データが分散していることで、横断的な分析や活用ができない
  • DX推進の足かせとなり、競合に後れを取るリスク

組織的な問題

  • 「どちらを使えばいいのか」という現場の混乱
  • ツール選択をめぐる部署間の調整コスト
  • 経営層と現場の認識ギャップ

「なんとかしたい」けれど、どうすればいいのか

この状況を「なんとかしたい」と感じながらも、具体的な一歩を踏み出せずにいる企業も少なくありません。

その理由は明確です。「どちらの方向に進むべきか」「どこから手をつければいいか」がわからないからです。

実は、この問題に対する答えは一つではありません。企業によって最適解は異なります。

選択肢1:M365への完全統合を目指す

この選択が向いている企業

  • トップダウンでDXを強力に推進できる体制がある
  • IT部門にM365の高度な設定・開発ができる人材がいる
  • 二重コストの削減を優先したい
  • 将来的にグローバル展開を見据えている

成功のポイント

  • 段階的な移行計画(一気に切り替えない)
  • 現場の声を聞きながら代替機能を検討
  • 十分な教育期間の確保
  • 経営層のコミットメント

選択肢2:戦略的な「いいとこ取り」併用

この選択が向いている企業

  • 日本独特の業務慣習が強く残っている
  • IT部門のリソースが限られている
  • 現場の混乱を最小限に抑えたい
  • 既存ツールへの投資が大きく、すぐには切り替えられない

成功のポイント

  • 「どのツールで何をするか」の明確な棲み分け
  • シングルサインオン(IDaaS)の導入
  • カレンダー同期ツールなどによる連携強化
  • 定期的な見直しと最適化

重要なのは「現状維持」ではなく「戦略的な選択」

ここで強調したいのは、「なんとなく併用を続ける」のと「戦略的に併用を選択する」のは全く違うということです。

後者の企業は

  • それぞれのツールの役割を明確に定義している
  • ツール間の連携を最適化している
  • 定期的にコストと効果を見直している
  • 将来の方向性(統合 or 継続)の判断基準を持っている

つまり、「決められずに放置」ではなく、「意思を持って選択している」のです。

なぜ多くの企業が動けないのか?

では、なぜ多くの企業が「なんとなく併用」から抜け出せないのでしょうか。

私たちがこれまで多くの企業様と向き合ってきた経験から言えるのは、以下の3つの壁があるということです。

M365の全体像が見えていない

M365は非常に多機能なプラットフォームです。Exchange、SharePoint、Teams、OneDrive、Power Platform…それぞれがどんな機能を持ち、どう連携し、自社の業務にどう活用できるのか——その全体像を把握している企業は実は多くありません。

「M365を導入した」と言っても、実際にはメールとTeams会議しか使っていない、というケースは珍しくありません。SharePointの真価、Power Automateの可能性、Teamsの拡張性——これらを理解せずに「M365では○○ができない」と判断してしまっているかもしれません。

自社業務への落とし込み方がわからない

仮にM365の機能を理解しても、それを自社の業務にどう落とし込むかは別問題です。

「稟議承認をどう実現するか」
「社内ポータルをどう構築するか」
「既存の業務フローをどう再設計するか」

これらは単なるツールの設定問題ではなく、業務設計の問題です。IT部門だけで解決できるものではありませんし、現場部門だけでも難しい。両者の橋渡しができる存在が必要です。

移行のリスクとプロジェクト管理

仮に方向性が決まっても、実際の移行プロジェクトは簡単ではありません。

「どの順番で移行するか」
「並行運用期間をどう設定するか」
「現場の混乱をどう最小化するか」
「トラブル時のエスカレーションはどうするか」

こうした実務的な課題に対する経験とノウハウがなければ、プロジェクトは頓挫してしまいます。

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専門家の支援を受ける価値

ここまで読んで、「やはり自社だけでは難しいかもしれない」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実際、M365の活用を成功させている企業の多くは、何らかの形で外部の専門家の支援を受けています

専門家が提供できる価値は、単なる「技術的な設定代行」ではありません。

1. 客観的な現状分析

自社の状況を客観的に分析し、本当の課題を明らかにすることができます。「国産ツールを手放せない理由」が本当に技術的な問題なのか、それとも運用や組織の問題なのか——外部の目があることで見えてくるものがあります。

2. M365の可能性の提示

M365で「できること」と「できないこと」を正確に把握し、代替案を含めた選択肢を提示できます。「この業務はこう実現できる」という具体的な道筋を示すことで、漠然とした不安が解消されます。

3. 自社に最適な戦略の設計

画一的な答えではなく、貴社の業務特性、現場の実態、ITリソース、将来のビジョンを踏まえた上で、最適な戦略を一緒に考えることができます。「完全統合」か「戦略的併用」か——その判断基準を明確にできます。

4. 段階的な移行計画とリスク管理

実際の移行プロジェクトでは、綿密な計画とリスク管理が不可欠です。どの順番で、どのタイミングで、どんな体制で進めるか——実績に基づいたプロジェクト設計ができます。

5. 現場の巻き込みと教育

技術的な実装だけでなく、現場を巻き込み、定着させるためのアプローチも重要です。チェンジマネジメントの視点を含めた支援ができるかどうかが、プロジェクトの成否を分けます。

第一歩は「現状を正確に把握すること」から

多くの企業が、この問題に対して「いつか何とかしなければ」と思いながらも、日々の業務に追われて後回しにしてしまっています。

しかし、併用状態が長引けば長引くほど、前述の「目に見えないコスト」は積み上がっていきます。そして、既存システムへの依存度が高まり、移行はますます難しくなっていきます。

重要なのは、完璧な答えを出すことではありません。まずは現状を正確に把握し、選択肢を明確にすることです。

  • 本当に国産ツールでなければできない業務は何か
  • M365で代替できる部分はどこまでか
  • 完全統合と戦略的併用、どちらが自社に合っているか
  • 移行するとしたら、どんなステップが必要か
  • 併用を続けるとしたら、どう最適化すべきか

これらの問いに答えることから始めてみませんか。

まとめ:会社の「最適解」を見つけるために

M365への移行・完全活用が進まない理由は、決して「現場が新しいものを受け入れない」という単純な話ではありません。

  • 『国産ツールの使いやすさと業務適合度の高さ』
  • 『日本企業特有の業務慣習への対応』
  • 『既存システムへの定着と移行の複雑さ』

これらは、いずれも正当な理由です。

しかし同時に、「なんとなく併用を続ける」ことの本当のコストも無視できません。そして、M365の真価を引き出せていないことの機会損失も大きいのです。

今必要なのは、現状を正確に把握し、自社にとっての最適解を見つけることです。

CACでは、M365の実装支援を通じて、多くの企業様の「最適解」探しをお手伝いしてきました。完全統合を実現した企業もあれば、戦略的な併用を選択した企業もあります。重要なのは、それが貴社にとって「意思を持った選択」であることです。

M365を導入したのに、既存ツールが残ったままの「中途半端な状態」が続いていませんか?

  • M365で”どこまでできるか”の境界が曖昧で、判断が感覚頼りになっている
  • 完全移行したいが、リスク・影響範囲・工数が見えず、検討に踏み出せない
  • ベンダー提案は自社視点に欠け、冷静に最適解を整理できない
  • 「残す/寄せる/置き換える」の戦略を、客観的な目で設計したい

初回のご相談では、貴社の現状をヒアリングさせていただき、考えられる選択肢と、それぞれのメリット・デメリットを整理いたします。無理に特定の方向性を押し付けることはありません。

貴社にとっての「最適解」を、一緒に考えていきましょう。

参考

  • *1サイボウズGaroon「Microsoft 365とグループウェアの併用」https://garoon.cybozu.co.jp/about/groupware/ms365_garoon/
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