今更聞けない企業のIT環境グローバル化―押さえておきたい6つのメリット―

IT環境のグローバル化が進まない企業が直面する課題として、以下のようなものがあげられます。

  •  ・IT環境が整わないため、グローバルで進めるべきビジネスを推進できない
  •  ・グローバル展開に必要なITコストが見通せず、投資判断ができない
  •  ・拠点間のデータ連携が標準化されておらず、情報をリアルタイムに共有できない
  •  ・海外拠点も含めたセキュリティ対策に不安を感じている

このような事でお困りではないでしょうか?

これらの課題はグローバルIT環境の未整備によって生じる典型的な問題です。本記事では、企業システム環境の歴史的変遷を振り返りながら、IT環境のグローバル化の定義、必要性、そして具体的なメリットについて解説します。

グローバル化を検討されている企業の経営者やIT責任者の方々にとって、道標となる情報をお届けします。記事が前後編となっており、この記事は前編にあたります。

この記事の概要

企業システム環境の歴史的変遷と現状の課題

企業システム環境は過去30年で劇的に変化してきました。1990年代はPC普及による「分散化」の時代で、メインフレームからクライアント/サーバー型への移行により各部門が独自のシステムを構築。2000年代には分散化の弊害を解消するためにERP/CRMを中心とした「統合」が進み、業務プロセスの標準化が進展しました。

2010年代はクラウドサービスとIoTが普及し、「所有から利用へ」のパラダイムシフトが発生。そして現在の2020年代は、パンデミックを契機とした働き方改革とハイブリッドワーク定着、セキュリティ強化、生成AI活用が特徴です。

しかし、これらの技術革新に合わせてシステム環境が変化する一方、多くの企業では海外拠点を含むグローバル全体の視点がないまま進められてきました。その結果、IT環境が国ごとにサイロ化し、真のグローバルビジネス展開の障壁となっています。

IT環境のグローバル化の定義と必要性

IT環境のグローバル化とは、企業や組織が世界規模で事業を展開する上で必要な、ITインフラ、アプリケーション、サービスを統合・標準化した環境を構築することです。具体的には、(1)クラウドサービスやグローバルネットワークなどの「グローバルITインフラ」、(2)統合ERPやグローバルCRMなどの「グローバルアプリケーション」、(3)多言語対応のサービスデスクや統一セキュリティポリシーを含む「グローバルITサービス」の三層から成ります。

グローバル化するビジネスを効率的に支えるためには、IT環境もグローバルに統合・標準化することが不可欠です。国ごとに異なるシステムでは、データの分断、重複投資、非効率なコミュニケーションなど多くの問題が生じ、グローバル企業としての競争力を損なう恐れがあります。

グローバル化によって得られる具体的なメリット

IT環境のグローバル化により、定量的・定性的な両面でメリットを享受できます。

―定量的メリット
ハードウェアやソフトウェアライセンスの集中購買による調達コスト削減、デバイスやシステムの標準化、ERP/CRMなどの環境の統一による管理コスト削減などの「ITコスト最適化」があります。

―定性的メリット
ITがビジネスのグローバル展開を加速し、新拠点の迅速な統合を実現します。また、地理的・政治的リスクの分散やグローバルなセキュリティポリシー適用による「リスク・セキュリティ対策の強化」、ITガバナンスの一貫性確保やサポート一元化による「IT運用の高度化」、そして優秀人材の活用や新技術の迅速な適用による「技術革新の加速」が挙げられます。

この記事では、これらの概要についてさらに詳しく解説し、後編ではIT環境のグローバル化を成功させるための実践的なアプローチをご紹介します。では、次章から記事の内容について詳しく触れていきます。

企業におけるシステム環境の変遷

1990年代:企業IT環境の大変革

1990年代、企業ITはメインフレームからWindowsベースのクライアント/サーバー型へ移行し、部門ごとのシステム構築が可能になりました。これにより個人の生産性は向上したものの、システムのサイロ化とデータ整合性の問題が発生。90年代後半には再統合の動きが始まり、インターネットの商用化とともにERP・クラウド時代への基盤が形成されました。

2000年代:ERPとCRMによる統合システム革命

2000年代は、サイロ化とY2K問題後の刷新ニーズから統合システムへの回帰が進みました。SAPなどのERPが一元管理を実現し、「システムに合わせた業務改革」という発想転換をもたらしました。CRMも顧客接点の統合管理を可能にし、後半にはSalesforceのようなSaaSモデルが台頭。これらのシステムは現在のDXの基盤となっています。

2010年代:クラウドとIoTが牽引するIT進化

2010年代は「所有から利用へ」とパラダイムシフトし、AWS・Azureなどのクラウドサービスが主流となりました。SaaS・IaaS・PaaSが浸透し、日本ではセキュリティ懸念から段階的移行が一般的でした。同時にIoT技術も普及し、クラウドとの組み合わせでビッグデータ活用が現実となり、企業のビジネスモデルと競争力の源泉を変革しました。

2020年代:パンデミック後の働き方改革と生成AIの登場

2020年代はコロナ禍を契機にリモートワークが定着し、「ハイブリッドワーク」が進化。これは評価制度や企業文化も変革しました。

セキュリティはゼロトラストへ移行し、2022年末のChatGPT登場以降、生成AIは最重要技術となり国内企業の7割以上が活用しています。この時代の特徴は変化の「速度」と「広がり」であり、技術より変化対応力が企業成功の鍵となっています。

しかしこの変化対応においてグローバルレベルでは新たな課題も生じており、データ保護規制や技術標準の地域差により、IT環境が国ごとにサイロ化し、真のグローバルビジネス展開の障壁となっています。

システム変遷のまとめとグローバル化という次なる課題

1990年代から2020年代にかけて、企業システム環境はメインフレームからクラウドコンピューティングへと劇的に進化してきました。この変遷の中でビジネスのデジタル化とグローバル化が同時進行し、特に2010年代以降のクラウド普及により、企業のIT環境は地理的制約から解放され、より柔軟で拡張性の高いものになっています。

こうした技術的変遷を踏まえ、現代のビジネスでは世界規模での事業展開にグローバル化されたIT環境が不可欠です。国境を越えた事業運営や24時間サービス提供、多様な地域に対応したシステム設計など、グローバルビジネスの要求に応えるIT基盤なくしては、国際競争力を維持できなくなっています。


企業のIT環境のグローバル化とは

グローバル化されたIT環境とは、企業や組織が世界規模で事業を展開する上で必要となる、ITインフラ、アプリケーション、サービスなどを統合・標準化した環境のことを指します。これは単に各国のシステムを接続するだけでなく、世界中のどこからでも同じ品質、同じ効率でビジネスを遂行できる基盤を構築することを意味します。

グローバルなITインフラ

グローバルIT環境の土台となるインフラは、世界中の拠点をシームレスにつなぐ要素で構成されます。クラウドサービスを戦略的に活用し、世界各地に分散配置されたデータセンターを利用することで地理的な制約を超えたサービス展開を実現します。

さらに、世界中の拠点で共通のハードウェア(PC、サーバー、ネットワーク機器など)とソフトウェア(OS、ミドルウェアなど)を使用することで、運用・管理の効率化と互換性の確保を実現します。グローバル調達によるコスト削減と、保守や更新の一元管理も大きなメリットです。

グローバルなアプリケーション

企業活動を直接支えるアプリケーション層では、業務の標準化と効率化を図るグローバル統合が重要です。会計、人事、生産、販売など企業の基幹業務を管理するERPシステムをグローバルで統一することで、各国間の業務プロセスを標準化します。世界中の顧客情報を一元管理するグローバルCRMは、顧客が世界のどこにいても一貫したサービスを提供できる体制を構築します。

また、グローバルサプライチェーンマネジメントシステムにより、世界中のサプライヤーや物流拠点を連携させ、原材料の調達から製造、物流、販売に至るまでの全プロセスを可視化し、グローバルな需給調整と在庫最適化を実現します。

グローバルなITサービス

システムを適切に運用し、ユーザーをサポートするためのサービス体制も、グローバルで統一されたアプローチが求められます。世界中の従業員からのIT問い合わせに対応するグローバルサービスデスクの設置や、各国の言語や文化に配慮した多言語対応は、グローバルIT環境の重要な要素です。

さらに、世界中の拠点で一貫したセキュリティポリシーを適用し、グローバルな脅威インテリジェンスを活用した防御体制を構築することが不可欠です。各国のデータプライバシー法規制に対応しつつ、グループ全体のセキュリティレベルを維持するバランスも重要な課題となります。

このように、グローバル化されたIT環境は、インフラ、アプリケーション、サービスの各層において標準化と統合を図りながらも、各国・地域の特性に配慮した柔軟性を併せ持つ必要があります。これらの要素が有機的に連携することで、企業は国境を越えた一体的なビジネス展開を実現できるのです。

IT環境グローバル化のメリット6つ

企業がIT環境をグローバルに統合・標準化することは、単なる技術的な取り組みではなく、ビジネス全体に大きな価値をもたらします。グローバル化によって得られるメリットは、数値で測定可能な定量的なものと、数値化は難しいものの重要な価値をもたらす定性的なものに分けられます。それぞれの観点から、主要なメリットを見ていきましょう。

定量的メリット:コスト削減と効率化

1. ITコストの削減・最適化

IT環境のグローバル化により、調達面で大きなコスト削減が実現します。ハードウェア、クラウドサービス、ソフトウェアライセンスなどを各国個別ではなく集中購買することで、スケールメリットを活かした価格交渉が可能になります。グローバル企業では、こうした集中購買によって調達コストを大幅に削減できることが実証されています。

また、PC等のデバイスをグローバルで統一することで、管理対象の種類が減少し、保守・運用にかかる工数とコストの削減が可能になります。標準化されたハードウェアは、一括調達によるコスト効率だけでなく、故障率の低減や部品在庫の最適化など、付随的な経済効果ももたらします。

2. 業務の標準化・効率化

ERP、CRMなどの基幹システムをグローバルで統一することにより、業務プロセスの標準化と効率化が実現します。各国で異なる方法で行われていた業務が統一されることで、重複作業の削減、処理速度の向上、ミスの減少など、直接的な業務効率の改善が図れます。

定性的メリット:ビジネス価値の向上

3. ビジネスのグローバル化を支える基盤

IT環境のグローバル化は、ビジネスのグローバル展開において不可欠な基盤です。現代では調達・製造・販売・サービスなどあらゆるビジネスプロセスがITに支えられているため、グローバル展開にはIT基盤の統一が必須条件となります。

統一されたIT環境では、連結会計情報や在庫情報などの重要データをリアルタイムで把握できるようになります。これらのデータを瞬時に確認できることで、経営判断の速度と精度が向上し、市場変化への迅速な対応が可能になります。また、共通のコミュニケーションツールは国や部門を越えたコラボレーションを促進し、会議設定の効率化だけでなく、情報共有やアイデア創出のプロセスそのものを変革します。

さらに、このようなグローバル統一基盤があれば、新規拠点設立やM&Aによる企業買収後の統合プロセスも大幅に効率化されます。システム連携の障壁が低減されるだけでなく、データ形式やビジネスプロセスの標準化により、組織統合からビジネス価値創出までの期間が短縮され、グローバル展開のスピードと成功率が向上します。

4. リスク・セキュリティ対策の強化

グローバルに分散されたIT環境は、特定の地域に依存する災害リスク(地震、洪水など)や政治的リスク(紛争、規制変更など)を分散し、全体としてのリスクを低減します。また、グローバルで統一されたセキュリティポリシーと対策を導入することで、グループ全体のセキュリティレベルを高いレベルに維持できます。

さらに、データガバナンスをグローバルで強化することにより、GDPR(EU一般データ保護規則)をはじめとする世界各国のデータ保護規制への対応が容易になります。これは法的リスクの軽減だけでなく、顧客からの信頼獲得にも寄与します。

5. IT運用の一元管理

グローバル化によって、各国ごとに異なっていたITルールや管理手法を統一し、運用の効率化を実現できます。グローバルなITガバナンスフレームワークの確立により、全社的なIT戦略の一貫性が確保され、経営層の意図が各拠点に正確に伝わるようになります。

また、グローバルITサポートセンターを設置することで、各国のITサポート業務を一元化し、サービス品質の均一化と経験・知識の共有が促進されます。さらに、AIや自動化技術を活用することで、ITシステムの監視・保守業務を効率化し、人為的ミスの削減と迅速な障害対応が可能になります。

6. 技術革新の加速

IT環境のグローバル化により、世界中の優秀なITエンジニアや専門家を活用し、技術革新を加速することができます。グローバルな視点からの人材活用は、組織に多様な技術的知見をもたらし、イノベーションを促進します。

また、グローバル化されたIT環境は、最新の技術やイノベーションを迅速に取り入れることを可能にします。新技術の導入と効果測定をグローバルで一貫して行うことで、成功事例を素早く水平展開でき、企業全体の競争力維持・向上につながります。

【事例】シーエーシーによるIT環境のグローバル化支援

協和キリン株式会社は「グローバル・スペシャリティファーマ」としての世界展開を進める中、各地域に分散したICT窓口のサイロ化という課題に直面していました。この課題解決に向け、シーエーシーは世界30社以上の拠点ネットワークを持つCognizant社とのパートナーシップを活かし、ITSM標準準拠のグローバル統一サービスデスクを構築しました。

協和キリンの事例詳細はこちら

効果1:サービスデスク一元化によるユーザー満足度向上

グローバル統一サービスデスク「GUIDe」の導入により、世界各地の従業員が単一窓口から一貫したサポートを受けられる環境を実現しました。これによりファーストコール解決率は80%に達し、「問い合わせ窓口の一本化で分かりやすくなった」「Webポータルで進行状況が把握できるようになった」という好評価が寄せられています。

効果2:ServiceNow導入による運用効率とガバナンス強化

クラウド型ITSMツール「ServiceNow」の導入は、グローバルサポート状況のリアルタイム可視化を実現。国や地域を問わない統一レポーティングと共通SLAに基づく品質管理により、サービス品質の標準化とパフォーマンス向上を達成しています。さらに、問い合わせチケットクローズ時のユーザーサーベイを活用した継続的改善サイクルを確立し、長期的な品質向上の仕組みも整備されました。

シーエーシーのグローバルIT環境構築アプローチ

シーエーシーは1966年創業の日本初の独立系ソフトウェア会社で、現在は世界30社以上の拠点を持つCognizant社と2019年にパートナーシップを締結しています。CACマネージドサービスはITSM標準準拠の標準メニューを顧客ニーズに合わせて組み合わせる方式を採用。世界標準と日本品質を両立させたITサービス基盤を提供し、日本企業のグローバル展開を支援しています。

IT環境のグローバル化のメリット

このように、IT環境のグローバル化がもたらすメリットは多面的です。定量的なコストメリットだけでなく、定性的な価値も含めた総合的な視点で検討することが、グローバルIT戦略を成功させる鍵となります。企業の特性や現状に応じて、これらのメリットの優先順位を設定し、段階的にグローバル化を進めていくことが賢明なアプローチと言えるでしょう。

まとめ~IT環境のグローバル化が企業にもたらす価値

本稿では、企業のシステム環境が1990年代の個別最適化から2020年代の働き方改革とAI活用へと変遷する一方で、「国ごとのサイロ化」という課題が生じていることを明らかにしました。

IT環境のグローバル化とは、ITインフラ、アプリケーション、ITサービスの各層で統合・標準化を図り、世界中のどこからでも同品質・同効率でビジネスを遂行できる基盤を構築することです。これにより企業は、ITコストの削減・最適化や業務の標準化といった定量的メリットとともに、グローバルビジネスの加速、セキュリティ強化、IT運用の一元管理、技術革新の促進といった定性的価値を得ることができます。

しかし、各社の歴史的背景、組織文化、既存システム、各国の法規制などが複雑に絡み合い、グローバル化への道のりには多くの障壁が存在します。では、IT環境のグローバル化を成功させるための具体的なステップとは何でしょうか? ガバナンス体制はどう構築すべきでしょうか?

次回の後編では、IT環境のグローバル化を成功させるための実践的アプローチ方法をご紹介します。また、グローバルIT環境の構築から運用までをサポートする当社のマネージドサービスについてもご説明します。適切なアプローチと専門知識があれば、IT環境のグローバル化は実現可能です。後編のコラムでは、グローバル化のステップやポイントをご紹介します。ご期待ください。