アステラス製薬株式会社様

SAPアップグレードとOS/DBのマイグレーションを同時進行で実現

2005年4月に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して発足したアステラス製薬。同社では2008年5月、基幹システムを大幅に刷新しました。

1993年にSAP R/3をベースに構築し、SAP R/3 Enterpriseへと変遷してきたシステムを、今回、SAP ERP6.0へとアップグレード。同時に、OSをUNIX(IBM AIX)からMicrosoft Windows Server 2003へ、データベースをOracle9からSQL Server 2005へと、マイグレーションも実施しています。

この類例のないプロジェクトの推進に際して中心的な役割を果たしたCACは、マルチベンダー・システムをインテグレーションする技術力とマネジメント力について高い評価をいただきました。

  • アステラス製薬株式会社コーポレート IT 部インフラグループ 課長代理 齊藤 啓一氏

    アステラス製薬株式会社
    コーポレート IT部
    インフラグループ
    課長代理 齊藤 啓一氏

プロジェクト概要

導入システム

SAP ERP 6.0へのアップグレードを機にプラットフォームをUNIXとOracleの組み合わせからWindows Server 2003とSQL Server 2005にマイグレーション。

目的

システム運用の効率化向上やコストを削減を図るため、SAP R/3 EnterpriseをSAP ERP 6.0へアップグレード。
同時に導入コストを抑えながらも全社の標準プラットフォームに対応したシステムにリプレース。

アプローチ

OSにWindows Server2003、データベースにはSQL Server 2005を採用。
これにともないサーバをIBM RegattaからHP Integrity Superdomeへ、ストレージはIBM ESSからHP Storage Works XP12000にマイグレーション。 SAPのアップグレードとマイグレーションを同時に実施しテスト回数の削減や移行期間の短縮を狙う。

導入の背景

低コストかつ高品質の基幹システム構築を狙い、SAPアップグレードとマイグレーションを同時に実施

SAPアップグレードとマイグレーションを同時に実施するのは極めて異例のケース。これについて、本プロジェクトを推進したアステラス製薬 コーポレートIT 部次長の道家勉氏は次のように語っています。

「今回のアップグレードで重視したのは、システム構成をそのまま継承するのではなく、同じタイミングで新規のインフラ環境に移行することです。アップグレードとマイグレーションを別々に実施すると、システムの移行/テストも、システムを停止するタイミングも、2 回必要になります。それは効率的ではありません」。

また、マルチベンダー化について道家氏は、「システムベンダーが固定化すると、やがてユーザーとベンダーの力関係が逆転し、ベンダーが主導権を取ることにもなりかねません。それは避けたい。加えて、アプリケーションやハードウェアについても選択肢を増やしたかった。それにより、システム導入コストと運用コストを低減させることを狙いました」と説明します。

UNIXからWindowsへ、OracleからSQL Serverへ

従来のシステムはOSにUNIX(IBM AIXを採用していました。その経緯を道家氏は、「アステラス製薬はWindowsを標準プラットフォームにしています。ですから、2002年のアップグレードの時にWindowsを一度検討したこともあります。しかし、当時はパフォーマンスに対する懸念もあってWindowsの導入を見送り、UNIXを継続して使うことにしました」と説明します。

一方、コーポレートIT 部インフラグループ課長代理の齊藤啓一氏によると、「その後、64bit対応になったことでUNIXと同等のパフォーマンスが発揮できるようになり、インフラ等も整った」と判断。そこで今回、Windows Server2003の導入に踏み切ったとのことです。「UNIX上でSAPを稼動させていたこれまでの基幹システムは当社としては異質でした。今回、Windows Serverを採用したことで、ようやく会社の標準に対応したことになります」(道家氏)。

AIXを使用していた旧システムは、IBMのSEによるサポートを受けていました。このような形が長く続くと、ベンダーの固定化、システムの属人化を招きかねません。それを避けたいということも、Windowsを採用した理由のひとつでした。また、OS との連携性を高めるため、データベースもOracleからSQL Serverに変更しました。

CACを選んだ理由

短期間に多くのベンダーが参画する難易度の高いプロジェクト

アステラス製薬におけるWindows系システムの開発と運用は、主にCACが担当しています。そのため、今回のプロジェクトでもCACの参加が必要でした。さらに、「アステラス製薬の業務を熟知しているという意味でもCACは欠かせない存在です。またCACは、SAPシステム構築のノウハウについては申し分なく、さらにアステラス製薬のシステムインフラ面やSAPの技術情報なども深く理解しています。CACの提案は、ハードウェア構成やトータルコストの面でも優れた内容でした」(道家氏)。

しかし、CACが選ばれた理由はそれだけではありませんでした。

今回、SAP ERP6.0へのアップグレード、OSとデータベースのマイグレーションを進めるにあたり、サーバーはHP Integrity Superdomeを採用、ストレージもIBM ESSからHP Storage Works XP12000にリプレースし、マルチベンダー化を推進しています。「基幹システムなので、約10ヵ月という限られた期間で確実にカットオーバーまで漕ぎ着けることが必須でした(図1)。その間に多くのベンダーが参画するのだから、難易度の高いプロジェクトとなることが予想されました」と道家氏が指摘する点も、システムインテグレータ選定の重要なポイントでした。

サーバー構成図
画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。

高いプロジェクト推進力でマルチベンダー・プロジェクトを的確にリード

今回のプロジェクトが計画どおり、5月の連休明けにカットオーバーを迎えられた要因を道家氏は、「CACにもっとも期待していたのはプロジェクト推進力です。彼等は我々の期待に十分応えてくれました。それに加え、ベンダー各社から優秀な技術者をアサインしてもらえたことも大きいと思います」と説明します。

齊藤氏も、「CACはちょっとした不具合でもとことん対応してくれました」と評価します。アステラス製薬は、各ベンダーに対して高い技術力を要求するとともに、それらを束ねるプロジェクトリーダーとしてのCACの経験とスキルに信頼を置いていたわけです(図2)。

アップグレードとマイグレーションを同時に実施することには大きなリスクが伴います。しかし、今回は、各ベンダーからの適切な情報提供があり、相互に協力しあえる体制を構築できたことで、大きな問題を回避できたと道家氏と齊藤氏は考えています。「CACは、最新の技術を取り入れつつ、当社が要求した要件、基準、ルールに適合したシステムデザインを行い、その構築を着実に推進することによって、大きく貢献してくれました」(道家氏)。

また、業務アプリケーションの面では、多くのベンダーの参加によってインタフェースなどに隙間が生じ、トラブルが発生した時などに責任の所在がはっきりしないという事態が、往々にして起こりがちです。オープン、マルチベンダーのシステム構築プロジェクトでは、特に注意すべき問題です。しかし、今回のプロジェクトでは、既存システムとの調整を含めて、テストを過不足なく効率よく実施したことが奏功し、問題はほとんど起こっていません。道家氏は、CACのプロジェクトマネジメントについて、「プロジェクトを取りまとめるシステムインテグレータとして大事なことは、プロジェクトに参加するパートナー各社の技術者が常に動きやすい環境を作ることだと考えています。CACは、それをいつも念頭に置きながら、適切にプロジェクトを推進していく力を発揮していたと思います」と語っています。

マイルストーンと全体スケジュール
画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。

システムの導入の効果

運用コストの削減を実現し、 将来を見越したシステムを構築

従来の基幹システムは、OSやディスクの管理にはベンダーから専任のSEを派遣してもらっており、属人的なシステム運用になっていました。そのためにコストも高くなりがちでした。しかし、新システムでは、運用をCACのインフラチームがシェアードサービス的に担当するようになったので、コスト削減を実現できました。

基幹システムのデータベースは、今回Oracle9からSQL Server 2005 に更新しました。アプリケーションではマルチベンダー化によるコストダウン効果を狙いましたが、インフラ周りでデータの受け渡しのトラブルを起こさないためには、OS とDBMSのベンダーを同じにする方がいいと判断した結果です。また、これによる運用の効率化も意図しています。それに加えて、「当社標準の環境になったことで、データベースについてもCACに対応してもらえるようになり、運用の窓口が一本化されました。このこともコスト削減につながっています。実際の使用にあたっても、データベース運用の担当者にとって、従来はテーブルの変更など細かい設定が必要だったのが、その必要がなくなったことで作業が軽減されるというメリットも得られました」と、齊藤氏は運用面の効果を語っています。

また、従来、IBM製のサーバーとストレージを使用していたときは同社のディザスタリカバリサイトを利用していましたが、今回のマイグレーションに合わせて、新たにディザスタリカバリサイトを大阪府内の自社拠点に構築しました。ERP6.0などの本番機やストレージのバックアップを非同期データコピー方式で行い、万が一の激甚災害の発生などに備えています。これについても、ベンダーの拠点を利用するのではなく自社内に置いたことで委託費用をカットすることができ、コスト削減につながっています。

イニシャルコストも低減

運用コストの削減ばかりでなく、IAサーバーを導入し、OSにWindows Server、データベースにSQL Serverを採用したことによって、トータルのイニシャルコストも低減できました。また、Windowsで必要な更新プログラムの導入も年間2 回に抑える計画であり、余計な工数をかけない方針としています。こうしたもろもろの効率化施策を実施しながら、高品質な基幹システム構築を実現できました。

今後の展望

ワールドワイドな規模での情報インフラ共通化も検討

アステラス製薬は海外展開にも積極的であり、海外売上の比率は約半分に達しています。こうしたことから、将来的な課題としてまず挙げられるのが、ワールドワイドでの標準化です。

すでに日本では、Windowsを標準プラットフォームと決めています。これまで、その標準から独立した存在だった基幹システムも、今回のアップグレードとマイグレーションによって標準に統一されました。一方で、「海外拠点の中には、今でもWindowsの信頼性・安全性などについて疑問視している拠点もあり、そうしたところにどのように標準プラットフォームを広げていくべきかが、今後検討していく課題」(齊藤氏)とのことです。「明確なメリットがあれば、今回の日本の実績を活かして海外に展開するということであって、単純に本社に追随してアップグレードやマイグレーションを行なえばいいというものではないと考えています」と道家氏が言うように、システム構成の最適化ということが前提となるようです。

インフラシステムを担当する齊藤氏が、「日本で基幹システムにWindowsを採用したことに対する注目が高いことは事実です。そのため今回のプロジェクトは、構築だけでなく、今後の運用も含めて絶対に失敗できないプロジェクトというプレッシャーも感じています」と語るように、Windowsを採用した新システムに海外拠点も注目しているとのこと。システム構築や運用面でのコストダウンは、日本だけではなく、海外にも共通する重要なテーマです。「今回の成果も含めて、海外拠点の情報システム担当者とは定期的にミーティングを行い、方向性の確認を続けて行く予定」と道家氏が語るように、海外拠点とのコミュニケーションを活発化し、方向性の統一化・共有化を進めていく考えとのことです。

効率化したコストを戦略的システムに再投資して競争力アップへ

今後、「業務の拡大や追加に応じて新しいアプリケーションやモジュールを導入するといった、システムの継続的な改革は続いていく。その時にどのような影響が出るのかなどを検証するテスト環境の充実も必要になってくる」(道家氏)こともこれからの検討課題。

できれば本番環境並のテスト環境が構築できればという考えもあります。いずれにせよ「UNIXからWindowsに転換したことはゴールではなく通過点のひとつに過ぎない。インフラとして見れば、安定稼動する基盤としての位置づけが重要」と齊藤氏は語ります。

これからも効率的なシステム運営を実現し、コスト削減を図ることはもちろん、それにより創出できた資金をシステムの再投資に回すなどして、より戦略的なシステムの構築を行う考えのアステラス製薬。そのことを通じて、情報システムが今後の同社の競争力アップにいっそう貢献していくことになるでしょう。

  • 記載事項は2008年8月現在のものであり、閲覧される時点で変更されている可能性があります。予めご了承ください。
    また、本事例紹介は、情報提供のみを目的としています。CACは、本書にいかなる保証も与えるものではありません。
  • 記載されている会社名および製品名は、各社の商標または登録商標です。