BPaaSとは:活用分野、メリット、展望
1. 拡大するBPaaSの利用、その市場規模と成長要因
クラウド上で提供される業務プロセスサービスであるBPaaS(Business Process as a Service)。その市場は近年急速に拡大し、今後も高い成長が見込まれています。
市場調査会社のData Bridge Market Researchは、世界のBPaaS市場規模は2024年に661.3億米ドルだと推計し、2032年には1721億米ドルに成長すると予測しています。そのCAGR(年平均成長率)は12.7%です。また、同社は、日本のBPaaS市場規模は2024年に31.9億米ドル、2032年に95.9億米ドルと推計・予測し、そのCAGRは14.8%となっています。
こうした成長の要因として、IaaS、PaaS、SaaSといったクラウドベースソリューションの採用が拡大してきたことが、まず挙げられます。また、少子高齢化などによる労働力不足が顕在化していること、サービス品質を維持・向上させながら運用コストを低減させるプレッシャーを多くの企業が受けていることなどもBPaaSの採用を促す要因となっています。
2. BPaaSの活用分野
BPaaSは具体的にどのような業務に活用されているのか、業務別・業界別にご紹介します。
業務別のBPaaS
業務領域 | サービス内容 |
---|---|
会計・経理 | 経費精算、請求書管理、月次決算、税務申告 |
人事・労務 | 給与計算、入退社手続き、勤怠管理、年末調整、社会保険手続き |
カスタマーサポート | コールセンター対応、チャットボット/IVR(自動音声応答)運用、FAQ管理 |
サプライチェーンマネジメント | 受注管理、在庫管理、調達・購買、出荷/配送手配 |
契約業務 | 電子契約、契約管理 |
マーケティング | メール配信、リード管理、デジタル広告運用 |
特定業界向けのBPaaS
業界 | サービス内容 |
---|---|
スタートアップ | バックオフィス全般の代行 |
医療 | レセプト処理、電子カルテ管理、患者の予約スケジューリング |
ネットショップ | オンライン決済、商品データ整備 |
不動産 | 賃貸管理、物件撮影 |
金融 | 口座開設時の本人確認、マネーロンダリング検知 |
行政 | 住民票・証明書発行、給付金支給 |
3. BPaaS利用のメリット
前述したとおり、BPaaS市場の拡大要因としてコスト低減がありますが、BPaaS利用のメリットはそれだけではありません。よく挙げられるメリットは次のようなものです。
自社の人材不足を補える
業務に精通した専門人材の育成には時間がかかりますし、分野によるものの専門人材の獲得も容易ではありません。BPaaSを利用すれば、その分野の専門人材を自社で抱えずに済み、また、業務がベテラン社員などに属人化してしまうリスクを避けることもできます。
迅速な導入が可能でスケーラビリティにも優れている
クラウドベースのサービスのため、自社専用のシステムに比べて導入までの時間が短縮できます。また、業務量の増減に応じてサービスを拡張・縮小できるため、事業の成長に合わせた利用が可能です。これらは特に、経営資源の大半を製品開発やマーケティングに投入し、迅速に市場参入したいスタートアップ企業には大きなメリットとなります。
業務の標準化と最適化を図れる
BPaaSベンダーからは通常、ベストプラクティスに基づいた標準化された業務プロセスが提供されるため、利用企業は業務の質の向上や安定化を図ることができます。個々の企業が試行錯誤して業務プロセスを構築しなくても実証済みの業務プロセスを利用できるので、この点もスタートアップ企業には特に大きなメリットとなります。
最新技術の活用が期待できる
多くのBPaaSはテクノロジー企業によって提供されています。そのため、AI、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、データ分析などの技術を取り入れ、サービスを継続的に進化させていくことが期待できます。
4. BPaaSの構成要素と展開タイプ
BPaaSの主な構成要素は、①業務プロセス、➁プラットフォーム(クラウドシステムインフラストラクチャ:IaaS、クラウドアプリケーション:SaaSなど)、③経験豊富な専門人材の3つです。一般的にBPaaSベンダーは、これら3つの要素を1社ですべて揃えるのではなく、大手のIaaSと自社のSaaSや専門人材とを組み合わせてサービス提供しています。
また、サービスの展開(deployment)タイプとしては、プライベート、パブリック、ハイブリッドの3つに分けられます。プライベートタイプでは、BPaaSが単一の組織専用のインフラ環境でホストされます。パブリックタイプは、複数の組織がアクセス可能な共有クラウドインフラ上でホストされ、ハイブリッドタイプは、その両方の要素を備えています。BPaaSというとパブリックタイプをイメージする方が多いと思われますが、データプライバシー要件が厳しい企業などではプライベートタイプの採用も少なくありません。特定企業向けなのでセキュリティが強化されるだけでなくカスタマイズできる範囲も広がりますが、その分、価格も高くなります。スタートアップや中小企業では、手頃な価格とセットアップの容易さから、パブリックBPaaSを選択することが多いと言えます。
5. 今後の展望
BPaaSは、業務プロセスの標準化と自動化を実現するとともにコストの最適化にも寄与します。そして、そのような特性は、クラウドサービスであるSaaS (Software as a Service)にも見られます。この2つを比較して、SaaSでは業務を実施するのはサービスの利用者自身、BPaaSでは業務を主に実施するのはサービスベンダーという解説がよく聞かれます。しかし、テクノロジーの進歩とともに両者の線引きは曖昧になりつつあるように見えます。
SaaSとBPaaSの線引きを曖昧にしつつあるテクノロジー、それはAIです。特に生成AIの発展により、AIを取り込んだSaaSは従来の効率化ツールから業務プロセスを変革するプラットフォームに進化し、業務最適化を支援する役割を担いつつあります。これは、BPaaSの側から見れば、SaaSだけでは対応が難しく専門人材がカバーしていた部分をAIが担うようになってきているとも言えます。一方で、BPaaSにもAIを取り込む動きがあるので、両者の違いはますます曖昧になっていく可能性があります。その状況を踏まえると、SaaSやBPaaSの利用者は、ある業務を社外のサービス利用に置き換えたら一段落とは考えず、常に最新テクノロジーの動向をウォッチしていくのが望ましいと言えそうです。
本稿をお読みになり、BPaaSの有効活用を少しでもイメージして頂けたなら幸いです。
[参考文献]